怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました
9.はじめての言葉《拓海 Side》

『今までお世話になりました』

なんの感情も見えない言葉を最後に電話を切られ、何度掛け直してもお決まりの無機質なアナウンスが流れるのみ。

三年前もこんな風に何度も連絡を取ろうと必死になった。

あの時は物理的に距離がありすぎて追いかけられなかったが、今は違う。

拓海は死に物狂いで仕事を終わらせマンションに帰ると、予想通り沙綾と湊人はおらず、荷物もなくなっていた。

舌打ちをしたい気持ちをどうにか落ち着けて、すぐに彼女が住んでいたアパートに向かい、到着するやいなや気が急いて近所迷惑も顧みずドンドンと乱暴にドアを叩く。

不用心にも鍵が開いていたので中に入ると、沙綾がいたことにホッとしたのも束の間、見知らぬ相手と抱き合っているのが視界に飛び込んできた。

嫉妬でカッと身体が熱くなる。沙綾が自分以外に触れているのが許せず、瞬間的に頭に血がのぼるのが自分でもわかった。

(こいつが湊人くんの父親か)

反比例するように冷たく硬い声で相手を威嚇し、沙綾から引き剥がそうと肩を掴んだ瞬間、ある違和感に気が付いた。

(男、じゃない……?)

修羅場になってもおかしくない場面で、「え……」と間抜けな声が漏れた。

そのすぐあとに湊人が昼寝から目覚め、沙綾と一緒にいた人物を『ユウキ』と呼んだことで、拓海の混乱はさらに深まる。

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