※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


 あれから三年の月日がたった。

 僕は王太子にはならなかった。
 父上をはじめ、重臣や側近たちからも説得を受けたが、愛する女性一人幸せにすることのできない人間が国民の父親であって良い筈がない。謹んで辞退した。

 ミランダはその後、僕の心が自分に向くことは無いと悟ったのだろう。或いは、王位に就かない僕には興味がなくなったのかもしれない。僕達の婚約は正式には結ばれず、今では他の男性との結婚に向かって動いている。


(だが、それで良い)


 残念ながら僕はエーファ以外の女性を愛せる気がしない。ミランダや周囲の人間が結婚を諦めてくれたことは、ありがたいことだった。


 留学が終わって以降も、エーファは隣国に留まっている。彼女の母親が隣国出身だったのがその理由だ。
 王子である僕が簡単に国を出られる筈もなく、あれ以降エーファに会うことは一度もできていなかった。
 エーファの家には、今でも定期的に手紙を送っている。けれど、読んでもらえているのかは分からない。彼女からの返信は、一度だってなかった。


(エーファは今、どうしているのだろうか?)


 毎朝目が覚める度、エーファに会いたいと心から願う。何処へ行ってもエーファを探してしまうし、彼女の声が聞こえた気がする。笑顔が見たいと思うのに、寧ろ忘れてしまいたいとさえ思う。エーファを手放したあの日に――――もう一度一からやり直せたら――――そんなことを願ってしまう。

 けれど、エーファを忘れられることは無かったし、時間が巻き戻ることも無かった。



< 467 / 528 >

この作品をシェア

pagetop