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恋するキモチ
 
 なあ。

 誰か、教えてくれ。

 恋をするって、どういう、コトだ?


 …………

 とても、穏やかなぬくもりの中で,目が覚めた。

 朝早くは、少し治まっていた風と雪がまた強くなり。

 あまり丈夫ではなさそうな小屋の外は、猛烈な吹雪の音がする……のに。

 やけに窮屈な僕の周りだけ。

 信じられないほど、暖かだった。

 半分凍り付いていた僕の各器官の修復のために。

 思ったよりも長く、意識を閉じていたらしい。

 そっと目を開け、辺りの状況を確認して、驚いた。

 僕は。

 久谷の服も、検査着も、全部脱がされて、狭いベッドに横になり。

 毛布と布団にくるまった挙げ句……

 ……裸の女性を抱きしめていた。

「……!」

 その状況に、驚いて。

 叫び出しかけた声を、僕は飲み込んだ。

 僕の腕の中に、すっぽりと収まって、寝息を立てている女性は。

 さっき、僕をソリに乗せてここまで連れて来てくれたヒトだって判ったからだし。

 何よりも。

 奇妙に安心する、この腕の中の暖かさを、ずっと守っていたかった。

 腕の中に眠る宝物を起こさないように、ざっと周囲を見渡すと。

 この小屋は、十畳ほどで薪ストーブの他は、家具がほとんど無く。

 僕たち以外には誰も居なかった。

 僕が寝かされているのは、ソファーベットで。

 掛けられている上掛けや、毛布も若干カビ臭い。

 それでも、電灯と、電気コンセントが一つずつあることを確認して、安心してもう一度目をつむった。

 電線が無くても、自家発電機があリ。

 どこかで必要な電力が供給できるなら。

 機能停止に追い込まれなくて、済む。

 そんな状況を一通り確認し。

 不必要なパワーの無駄遣いを避けるべく、もう一度、スリープモードに入ろうとした時だった。

 腕の中で、女性がかすかに身じろぎをして、ささやいた。

「……良かった……生きてる……」

 その、心からほっとした様な声に。

 僕は、開きかけていた目をもう一度、つむった。

 のに。

 今度は、腕の中の女性が、がばっと跳ね起きた。
 
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