聴かせて、天辺の青

店の駐車場に居た女性は、海斗に教えてもらった日以来、見かけなくなった。たまたまどこかへ向かう途中に立ち寄ったんだろう。



海斗が気にしすぎてるんだと笑って済ませた。それでも海斗は、まだ納得できないと言いたげな顔をしていたけど。



いつも通り、おばちゃんの家で朝の仕事を済ませる。いつもと違う格好だから何だか落ち着かないけれど、おばちゃんは気遣ってくれたのか何にもツッコンだりしない。



それよりも、問題は和田さんたちだ。



「和田さんたちが下りてくる前に、早く行きなさい」



おばちゃんが言ってくれたから少し早めに切り上げて、こっそりと出て行こうとしていると和田さんたちが下りてきた。



何というタイミングの悪さなのか……



「何や? デートか?」



玄関で固まる海棠さんと私を見て、和田さんがにやりと笑う。
ところが海棠さんは臆することなく、



「はい、デートしてきます」



と堂々と答える。
デートという言葉に耳がこそばゆくなってくる。



「ええなぁ、どこ行くんや?」

「ちょっとだけ、遠出してきます」

「そっか、気ぃつけて行って来(き)いや、土産は要らんで、ゆっくりしといで」



てっきり茶化されると思っていたのに、和田さんは優しく見送ってくれた。




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