聴かせて、天辺の青
おばちゃんの家から駅までは、のんびりと歩いて十数分ほど。
屋根の上に六角形の塔を掲げた小さな駅舎は、まるで童話の中から抜け出したようで木のぬくもりに溢れている。
「ここで降りた時は、こんな駅舎とは気づかなかったよ」
駅舎の天井を見上げながら海棠さんが溢す。
たしか以前、海が見えたから降りたのだと話してくれた。
あの時の彼には、駅舎を見る余裕はなかったんだろう。
ということは、今は気持ちにも余裕が生まれているということかもしれない。天井を仰ぐ彼の顔は穏やかで、見ている私まで落ち着かせてくれる。
「この駅舎珍しいでしょう? 確か、どこかの博覧会で展示されていたのを移設したらしいよ」
「可愛らしくていいね、こういう駅舎があるのは沿線でここだけ?」
「たぶん……、そうだったと思う」
最近は列車に乗って出かけることは少ないし、うろ覚えだから自信がなくて曖昧な答え。すると海棠さんは、何か思いついたように微笑んだ。
「だったら他の駅を見ながら、ゆったりと終点まで行ってみようか?」
切符を買ってホームへ。
駅舎に似てノスタルジックな雰囲気を湛えるホームへと出ると、ふわっと風が通り抜けていった。
ホームには私たちの他に乗客の姿はなく、反対側のホームは列車が出たばかりでがらんとしている。列車の本数は一時間に一本程度、次の列車はあと十分もすれば到着する。