聴かせて、天辺の青

二月後半に入り冬型の低気圧の影響で朝から強い風が吹き荒れて、海は荒れて波は高かった。どんよりした低い雲が今にも雨か雪を降らせそうに迫りくる。



そんな中、道の駅に麻美がやって来た。
麻美は今日仕事が休暇だと言うけれど、私は仕事。会う約束なんてしていない。
いきなり私の職場までやって来るなんて初めてのこと。



外は寒いから事務所の隅の会議テーブルに案内して、何かあったのかと身構えたらスマホの動画見せてくれた。
海棠さんの新曲を見つけたのだと。



「これ、瑞香へのメッセージじゃない? 近いうちに帰ってくるのかもしれないよ?」



興奮気味な麻美の声に、河村さんが顔を上げた。机上のパソコンを睨みつけていた河村さんは、事務所の隅の応接テーブルで話す私たちのことなんてさっきまで素知らぬふりしてたのに。邪魔をしてしまったらしい。



スマホの動画の音量よりも麻美の声の方がよほど大きかったようだ。



「すみません」と小さな声で笑顔を引きつらせながら麻美が謝り、私も後に続く。



ところが河村さんは頷いて立ち上がった。ここじゃ仕事ができないと怒って出て行くのかと思ったら、つかつかと私たちの方へとやって来る



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