聴かせて、天辺の青
「仕事の邪魔をしてしまって、すみません」
「違うの、気にしないで。それより誰のこと話してたの?」
平謝りする麻美ににっこりと笑顔で答えて、河村さんがスマホを覗き込む。麻美が慌てて開いた動画を、河村さんは食い入るように見つめる。
「海棠くんね、よく見つけたわね」
「はい、たまたま昨日見つけたんです、今月の初めに掲載されてたのに今ごろですけど」
「ううん、見つけられただけでもすごいよ、これって海棠くんからのメッセージだよね」
「私もそう思ったんです、だから少しでも早く瑞香に知らせたくて」
河村さんと麻美が話すのを見ながら、私はあの朝を思い出していた。海棠さんに初めて会った時の朝を。
夜明け直前のぴんと張り詰めた空気の中、自転車でおばちゃんの家へと向かっていた。鼻先を掠める冷え切った空気の中に紛れた潮の香りと沈丁花の香り。小さく弱々しいけれど春を感じさせる花は私の誕生花。
もう既に沈丁花は咲き始めている。
「瑞香ちゃん、海棠くんと会った場所へ行ってみたら? もしかしたら、もう帰ってきてるんじゃない?」
「そうだよ、初めて会った場所ってどこ? 行ってみなよ」
河村さんと麻美が詰め寄る気迫に思わず後退り。今すぐにでも行ってくるようにと言わんばかりの表情で迫りくる。