聴かせて、天辺の青


背中を押された私は、まるで病院の前でイヤイヤと泣きじゃくる子供の気分。海斗が肩に手を回して、くしゃくしゃと頭を撫でる。


「おはよう、朝っぱらから何をじゃれ合ってんの? 相変わらず仲良しね」


河村さんは机上のパソコンのモニターから顔を上げて、にっこり笑って迎えてくれた。


「おはようございます、仲良しじゃないですよ」


肩に乗っかった手を振り払い、きっと睨むと海斗がにやっと笑った。


「おはようございます、河村さん、今日の瑞香、ちょっとおかしいから気をつけた方がいいですよ」


河村さんに挨拶を済ませた海斗は、事務所の奥にある更衣室へと足早に向かう。
おかしいのは自分でもわかっているから否定できない。


「どうしたの? 暖かくなってきたから?」


と河村さんは笑ってる。


更衣室のドアが閉まった。ドアの上部の磨りガラス越しに、海斗の影が遠ざかっていく。


チャンスだ。


事務所には河村さんと私の他には誰もいない。わかっているのに、きょろきょろと辺りを見回して、足音を立てないように河村さんに歩み寄る。



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