いとしいあなたに幸福を

07 玉桂-たまかつら-

「…どう?少しは召し上がってくださった?」

「駄目…やっぱり今日も全然手を付けられてないわ」

二人の使用人は、冷め切った料理が乗せられた盆を覗き込んで大きく溜め息をつく。

そして閉ざされたまま開かれない扉の前で互いに顔を見合わせると、料理の置かれていた手押し車ごと足早にその場を立ち去った。

――周は厘の葬儀後、自室へと閉じ籠ってしまった。

厘から受け継いだ領主としての責務も、生まれたばかりの息子に逢うことも、以前のように明るい笑顔を周囲に見せることも。

何もかも、放棄してしまった。

あんなに信頼していた側近の陽司、親しかった悠梨や愛梨すら寄せ付けなくなった。

周が今までずっと内側に溜め込んでいた負の感情が、耐え切れずに爆発してしまったようだった。

そのことを以前から懸念していた者も、異変を予測していなかった者も、誰も。

深い悲しみに囚われた周を咎めることは出来なかった。

こうして使用人たちが食事を運んで来ても、扉の前で追い返されてしまう。

部屋に入ろうとしようものなら、周は威嚇するかのように怒声を上げる。

使用人たちは仕方なく、毎回部屋の前に食事を置いておくことにしたのだが、それにも全く手をつけていない。

「…閉じ籠られてからもう今日で五日目よね…?このままじゃ周様、お身体を壊されちゃうわ…」

「それに生まれたばかりの京様が可哀想よ…お母様を亡くされて、お父様があんな状態だもの」

都が命懸けで産み落とした子――京はそんな父親の状況とは裏腹に元気な姿を見せていた。

都の発作の影響と早産のため心配されていた問題は特になく、少々身体が小さいこと以外は他の赤ん坊と何ら変わりない。
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