砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
第5章 愛の呪文
(1)愛と敗北
サクルは“砂漠の舟”に乗り、アミーンはその後方を走って追いかける。彼の馬はここよりだいぶ前、日の高いうちに息絶えたという。
精気を取り戻したばかりのアミーンにはいささか辛い所業かもしれない。
だが、サクルは男と相乗りをするつもりはさらさらなかった。
「しっかりついて参れよ。はぐれたときは今度こそ干物になるぞ」
「はい! だっ、だいじょう……ぶ、です」
サクルは前方に意識を凝らす。
リーンの気配が洞窟内のオアシスから消えた様子はない。思考を感じ取れないのは、おそらくまだ眠っているからだ。
そう判断するのだが、どうにも胸のざわめきが鎮まらない。
「陛下! 前方の岩の近くに何かが見えます」
アミーンは早足でサクルの乗ったラクダを追い抜き、いつでも抜ける体勢で剣の柄を握った。
「私が調べて参ります。陛下はこちらでお待ちください!」
先ほどまで肩で息をしていたが、アミーンもなんらかの異変を感じ取ったのだろう。にわかに、機敏に動き始める。
岩の近くに横たわる物体。それは遠目にも人の姿に見えた。
岩の影に隠れ月光の届かない灰色の砂の上に、黒く長い髪がうねっている。白い衣をまとっているように思えたが……。
近づいたアミーンには、それが白い裸身であることがすぐにわかった。彼の目に丸みを帯びた臀部が見え、その曲線は明らかに女性。
この場所にいる女性はただひとりしかいない。
「陛下っ! 正妃様です。正妃様が――。すぐにお助けいたします!!」
精気を取り戻したばかりのアミーンにはいささか辛い所業かもしれない。
だが、サクルは男と相乗りをするつもりはさらさらなかった。
「しっかりついて参れよ。はぐれたときは今度こそ干物になるぞ」
「はい! だっ、だいじょう……ぶ、です」
サクルは前方に意識を凝らす。
リーンの気配が洞窟内のオアシスから消えた様子はない。思考を感じ取れないのは、おそらくまだ眠っているからだ。
そう判断するのだが、どうにも胸のざわめきが鎮まらない。
「陛下! 前方の岩の近くに何かが見えます」
アミーンは早足でサクルの乗ったラクダを追い抜き、いつでも抜ける体勢で剣の柄を握った。
「私が調べて参ります。陛下はこちらでお待ちください!」
先ほどまで肩で息をしていたが、アミーンもなんらかの異変を感じ取ったのだろう。にわかに、機敏に動き始める。
岩の近くに横たわる物体。それは遠目にも人の姿に見えた。
岩の影に隠れ月光の届かない灰色の砂の上に、黒く長い髪がうねっている。白い衣をまとっているように思えたが……。
近づいたアミーンには、それが白い裸身であることがすぐにわかった。彼の目に丸みを帯びた臀部が見え、その曲線は明らかに女性。
この場所にいる女性はただひとりしかいない。
「陛下っ! 正妃様です。正妃様が――。すぐにお助けいたします!!」