月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る
夜の夢こそ真実
暗いマンションの一室であたしは息をひそめていた。

隣の達郎もじっと動かずにいる。

闇の中で達郎と二人きりと書くと艶っぽいが、実際は張り込みだ。

それに厳密に言うと二人きりではない。

玄関を入って左側のバスルームには先輩の星野警部補がいるし、反対側のキッチンでは上司の岸警部が冷蔵庫の影に隠れているはずだ。

ちなみにあたしらはリビングのソファの後ろにいる。

時計は夜の8時をさしていた。

『仕掛け』をしてから1時間、張り込んでから30分が経過している。

「本当に来るかしら」

あたしは小声で言った。

「来るかもしれないし、来ないかもしれない」

達郎も小声で答える。

「来なかったらどうするの?」

この仕掛けを提案したのは達郎だった。

「来なかったら別の手を考える」

つまりその時はその時というわけか。

無責任に聞こえるが、今まで達郎の推理が的外れに終わったことはない。

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