聴かせて、天辺の青
◇ささくれた人
ようやく色を取り戻し始めた空、見えなくても日が昇ってくるのがわかる。それでもまだ風は冷たくて、ぶるっと背筋が震えた。
同時に込み上げてくるのは、後悔と自己嫌悪。
ふうと大きく溜め息を吐いた。
海岸沿いの国道から港側に一筋入った道沿いに、小さいけれど一際目を惹く酒屋がある。
2階建ての店舗は、明るいクリーム色のサイディング仕上げの外壁。周辺に建ち並ぶ焦げ茶色をした板張りの外壁の民家とは違う、目新しさが感じられる。
道路に面した駐車場には車が停まっているが、シャッターはまだ閉まったまま。店舗の横を通って裏側に回ると、店主の住居に繋がっている。
私の家ではないけど、勝手知ったる家に向かって奥へと進む。
勝手口と傍にある小さな窓は煌々として明るく、忙しく回る換気扇からは食欲をそそる匂いが吹き出してくる。
そういえば、お腹が空いた。
きゅうと鳴り出しそうなお腹に伸ばした手を、空に泳がせて引っ込める。
お腹を摩ってる場合じゃない。
それより、今は寒い方が勝ってる。
早く中に入りたい。
でも、こんな格好じゃ入れない。
葛藤しながら、勝手口の扉のノブへと手を伸ばす。
いつもなら勝手口を開けると、朝食の準備に追われるおばちゃんが振り向いて、
「おはよう」
と優しい笑顔を見せてくれるはず、だけど今日は違った。