聴かせて、天辺の青


いつも通り、おばちゃんは振り向いた。


でも、いつもと違う顔で私を見ている。目を丸くして、ぽかんと開けた口が何か言いたげに小刻みに震えている。


勝手口の外で、じっと動けない私に注がれるおばちゃんの視線が痛い。
こんなこと初めて。


無理もない。
誰だって、今の私を見たらおばちゃんと同じ顔をするだろう。


「瑞香(みずか)ちゃん、どうしたの? 雨降ってきた?」


ようやく発せられたおばちゃんの第一声は、上摺っていた。


わざわざ手を止めて、おばちゃんが駆け寄ってくる。申し訳ない気持ちと恥ずかしさに耐えられず、私は顔を伏せて答えた。


「違うの、海に落ちたの……」


頭から靴まで、私は見事にびしょ濡れだった。雨に濡れた方が、まだかわいい。


だって、頭から丸ごと海に浸かったのだから。せめて鞄だけは無事で良かったけど、コートから下着から靴まで水没して全滅だ。


「ええっ? どうして? とりあえず早く上がって、風邪引くから、すぐにお風呂に入りなさい」


と言って勝手口から身を乗り出したおばちゃんは、再び言葉を失った。


私の影にいる男性に気付いたのだ。
見ず知らずの彼も、もちろんびしょ濡れ。


「あなたも落ちたの?」

「はい」

溜め息交じりにおばちゃんが問うと、彼はぼそっと答えた。


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