極上ショコラ【短】
優雅な仕種に、胸の奥が小さく鳴る。


こんな些細な事ですらあたしの心を掴む篠原は、とてもずるい男性(ヒト)だと思う。


ほんの数歩、歩み寄る。


たったそれだけの行動で心を掴む人を、あたしは篠原以外に知らない。


それが彼との関係から生まれる欲目だとしても、あたしにとっては今感じている事が全てなのだ。


「……原稿じゃねぇなら、何の用件で来たんだよ?」


「え?」


「お前の事だから、ただ恋人の家に遊びに来た、って事はねぇだろ」


どこと無く不満げな言い方に引っ掛かりながらも、本来の目的を忘れてしまいそうだった事に気付いた。


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