祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
「…ごめん。その涙を拭ってやりたいけど、散々お前を傷付けた俺には、そんな資格がねぇよな…」



イノリは手のひらを見つめると、握り締めた。





「…イノリ、ごめんね。私…何も知らな過ぎた。こんなに苦しんでるのに…裏切られたんだって自分だけ可哀相だと思ってた。…ごめんっ…ごめんなさいっ…」


「何でキヨが謝るんだよ。お前は何も悪くないのに…」



「だって…1番一緒にいたのに何も気付かなかったんだよ?…イノリの存在に依存して、姿が見えれば安心で…イノリ自身のことを何も見ようとしてなかった」




キヨは白い瞼が赤くなる程強く、涙を拭く。





「キヨ。お前はケンと付き合え。あいつは俺と違ってお前を大切にするよ。ケンの優しさは本物だからな…」


「なんでそんな事言うの!?私はイノリじゃなきゃダメなんだよ!」


「俺だって…お前といたいよ。でも俺は…もう何も失いたくないから手に入れない。それに気持ち悪いだろ、お前だと想って姉を抱いてた男なんて。俺がお前でも気持ちわりぃよ……。もう、さ………ただの幼なじみに戻ろう。何もかも忘れて」




イノリは立ち上がると、そのまま病室を出て行った。



キヨは呼び止めたかったけれど、イノリの気持ちが痛いほど理解出来たから声が出せなかった。
< 110 / 479 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop