スイートホーム
「…つーか、こんなすごいとこで取引先をもてなさないといけないんだ」


役目を終えた男性が退室するやいなや、麻美がちょっと興奮気味に言葉を発する。


「しかも相手は一社だけじゃないんだもんね。必ずこの店を利用する訳じゃないだろうけど、他の接待御用達のお店もクオリティは揃えてるだろうし、それにかかる費用が大変なことになりそう」


「あ、それがね。雰囲気のワリには意外とリーズナブルなのよ、ここ。特に主婦層が集まるランチの時間帯は。土日も関係なくその値段で提供してくれるし」


「へぇ~?そうなんだ」


「まぁ、さすがにファミレスやファストフードの価格設定に比べたらお高めになっちゃうから、頻繁に通えるような場所ではないんだけどね」


ちょっと苦笑いを浮かべながら加奈は続けた。


「でも、味は申し分ないし、手が届く範囲内の贅沢を味わいたい、ちょっとしたセレブ気分に浸りたい、って時には最適なお店な訳よ」


「なるほどね」


そうこうするうちに先ほどの男性が水とおしぼりを持って現れ、次いでウェイトレスさんが次々と料理を運び入れた。


「それではごゆっくりおくつろぎ下さいませ」


すべての料理が出揃った所でウェイトレスさんがそう述べながらお辞儀をし、出入口まで歩を進める。


彼女が廊下に出て静かにドアを閉めたのを確認してから、私達は口々に言葉を発した。
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