スイートホーム
「いんや。アイツ、絶対瞬時に頭の中で色々計算して、そういう行動に出たんだよ。今の俺なら良く分かる」


優さんは頭に置いていた両手を前に移動させ、顔を覆うと、その姿勢のまま憎々しげに吐き捨てた。


「トラブルを巻き起こすのがこの上なく大好きな、そして無意識下でそれができてしまう、天然の疫病神だから、アイツ…」


その絶望的に暗い声音に、思わず言葉を失ってしまう。


「案の定、それで田中さんのスイッチが入っちまってさ。梨華に根掘り葉掘り質問して、俺が彩希と別れて、梨華と結婚を視野に入れた付き合いをしてるっていう所まで瞬く間に聞き出されちまったよ」


優さんは顔を覆っていた両手を力なく下ろし、続けた。


「娘さんが割り込む形で会話はそこで終了したんだけどさ。でも、もう後の祭りだよな。そのセンセーショナルな話題は、田中さんによってその日のうちに仲間内に拡散されたみたいだ」


「え…」


「自分達の大切な同僚、彩希を捨てて他の女に走って、職場にも居辛くさせて、結果的に色々なものを失わせて不幸にした、憎き冷血野郎だもんな、俺は。翌日から、あからさまに社食の皆の態度がよそよそしいものに変わった」


「そ、そんな。気のせいじゃないの?」


確かに社食のおば様方は好奇心旺盛で、そういう面で辟易した事は多々あるし、だからこそ今回とっとと逃げ出した訳だけど、意地悪や嫌がらせをされた記憶は一切ない。
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