スイートホーム
「どいて」


そんな彼を睨み付けながら体を押し退けようとしたけれど、その手を乱暴に払われ、逆に両手で首筋を捉えられる。


……え?


「あ、あやまれよ…」


依然として体を震わせたままそう言い放つと、優さんは首を掴んだ手に徐々に力を込め始めた。


「や、やめっ」


必死にほどこうとしたけれど、寝転んだ状態で男の人の力に抗うのは至難の技だった。


体勢を変えようにも、馬乗りになられて体重をかけられているのでそれも容易じゃない。


「あ、謝れば、許してやる」


唯一自由になる両足をジタバタさせてもがく私に向けて、優さんは体同様、震える声で囁いた。


彼自身、人の首を締めるという行為にさすがに躊躇があるのか、握力の限りを尽くして締め上げている訳ではない。


気道は塞がないよう調整しながら、身動きが取れないよう押さえ込んでいるといった感じ。


しかし、見るからに興奮状態である彼が、いつ、一線を越えてしまうか分からない。


言葉通り、素直に謝れば、この危機は回避できるのかもしれない。


だけど……。


こんな人に、たとえその場しのぎの嘘だとしても、謝罪なんかしたくない。


そんな事を目まぐるしく考えている間に緊張が極限状態に達したのか、グラリ、と景色が揺らぐ程の強い目眩に襲われた。
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