スイートホーム
順風満帆な、世間的には『エリート』と称される人生を送って来た自分が、まさかこんなトラブルを引き起こし、前科者になるかもしれない立場になるだなんて、夢にも思っていなかっただろう。


「ごめんな、さき…。ホントごめん。俺、どうかしてたんだ」


優さんはすがるような目で私を見上げ、懇願した。


「俺、心を入れ替えて頑張るから、だから、どうか警察にだけは…」


「うん、大丈夫。分かってるから」


私は力強く頷いたあと、小太刀さんを真っ正面から見据えた。


「そういう訳なんです。彼も心から反省しているようですし、どうか、離してあげてくれませんか?」


しばし私を見つめたあと、小太刀さんは無言のまま拘束を解いた。


その瞬間、優さんは四つん這いの姿勢であわあわと前に進み、小太刀さんと充分に距離を取ってから振り返る。


「…早く行って」


すっかり毒気を抜かれた、今にも泣き出しそうな表情で私を見つめる優さんに向けて、最後の優しさで、穏やかに言葉を発した。


「もう二度と、会いに来たりしないでね」


「…うん、ごめんな」


絞り出すような声でそう答えると、優さんは立ち上がり、覚束ない足取りで境内を横切り石段を降りて行った。


その後ろ姿が見えなくなった所で、緊張の糸が切れたのか、ふら、と体がよろめく。


そのまま倒れそうになった私を、すかさず小太刀さんが抱き止めてくれた。
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