スイートホーム
気を抜くと、そのまま意識が遠退きそうになる。


「お袋さんも親父さんも、ほんの数日でげっそりと痩せ細ってしまって精魂尽き果てたって感じで、何だかもう、見ていられなかったよ」


『血の気が引く』という感覚は今までも体感した事はあるけれど、ここまでのレベルに到達したのは初めてだった。


「だけど意外にも、小太刀だけは急激な外見の変化は無く、普段と同様、中学生らしからぬ凛とした立ち居振舞いで、列席者達にきちんと対応していた」


「……最愛のお姉さんとのお別れの儀式だから、きっとご両親の代わりに、一生懸命頑張ったんでしょうね」


言ってから、まだ14、5歳の、小太刀少年の健気な姿が脳裏に浮かび、胸が締め付けられた。


「うん。そうなんだろうな」


神妙な表情で頷いたあと、加賀屋さんは続ける。


「でも、その頑張りも、長くは続かなかった」


「え…?」


「俺と小太刀が通っていた道場には警察官になった先輩方が何人かいて、都合がついた人だけ一緒に通夜に参列していたんだ。その中の一人が、お悔やみを言う段で思わず、という感じで呟いたんだよ。『小太刀のお姉さんがそんな目に遭っていた事に、俺達が早く気付いていれば…』って。それを聞いた瞬間、小太刀は突然豹変した。荒々しい口調で『気が付いていたら、どうだったっていうんですか?』って、その先輩方に詰め寄ったんだ」
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