スイートホーム
「でも…加賀屋さんご自身がその当時、まだ18、9だったんですよね?」


「うん」


「だったら仕方ないですよ。私なんて、今この年齢でそういった場面に遭遇したとしても、ご家族に何て言葉をかけて良いのか分かりません」


「…ありがとね、気を使ってくれて」


穏やかに微笑みながらそう言うと、加賀屋さんはさらに続けた。


「何もできず、悶々とした気持ちを抱えたまま1ヶ月が過ぎた頃、小太刀が道場の稽古に復帰したんだ。もう来なくなってしまうかもしれないと思っていたから心底ホッとしたよ」


その時の気持ちが甦ったのか、加賀屋さんは安堵の表情を浮かべていた。


「開口一番、通夜の席での非礼を皆に詫びていた。もちろん、あの時の小太刀の言動を責める奴なんて一人もいなかったけどね。ただ、俺も含めて、しばらくは腫れ物に触るような扱いをしてしまっていたと思う」


「それは…。やむを得ない事ですよね」


相手を思うが故の、心の揺れ、葛藤だもの。


誰一人、悪い訳じゃない。


「でも、それにはあえて気付かないふりをして、小太刀は黙々と修練を重ねて行った。今思えば竹刀を握る事で、ふとしたきっかけで崩れ落ちそうになる自分の精神を保っていたのかもしれない」


その解釈に賛同の意を表すため、私は深く頷いた。
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