スイートホーム
同じような経験をし、どうしても相手を許せず、一生その思いを引きずってしまう人がいたとしても、それはそれで仕方のない事だと思ってしまったりもする。


強く寛大に生きる事を、第三者が強要したりしてはいけないと思う。


「いや。俺も逆の立場だったとしたら、そこは大いに気になる所だろうから」


そんな私の心中は知る由もなく、加賀屋さんは穏やかにそう返答した。


そしてふと、今さらながらに思い出したように、だいぶ冷めてしまったであろうコーヒーを手に取り、一気に飲み干してから話を再開する。


「…つーか俺、何だか途中かなり偉そうな言い草だったよな。『優秀な人材を云々』のあたり」


ヘビーな部分を無事語り終えたからか、だいぶリラックスした、普段の加賀屋さんの声音に戻って来ていた。


「そんな事ないですよ。一般市民が抱く、正直な感想じゃないですか」


ちょっと考えてから、私は再び口を開く。


「彼らもきっとそういった覚悟を持って、その道を選んだはずですから」


初心を忘れ、脇道に逸れてしまう人も中にはいるようだけれど…。


それはあえて口外せず、私は続けた。


「そして私達も、その事に対しての感謝の気持ちを忘れずに、お互いに協力し、支え合いながら暮らして行けたら幸せだろうな、と思います」


思いっきり綺麗ごとかもしれないけれど、願うのだけは自由だから。


「うん、そうだよね」
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