スイートホーム
しかもうちの場合、志希が何でも構わず袋に入れてしまうから、後で分別するのがすこぶる大変だった。


だけどこの寮で暮らしている限り、そのプレッシャーや煩わしさとは無縁でいられる。


袋がいっぱいになったらその都度捨てることができるなんて。


こんな夕方寄りの時間帯でもおかまいなしにゴミ出しができるなんて、今までの生活では考えられなかったことだもん。


ホント、ありがたいシステムだよね。


そんな風に幸せを噛み締めつつ、プレハブ小屋を出て玄関に向かって歩き出そうとした、その時。


進行方向から、小太刀さんがゴミ袋片手に歩いて来る姿が見えた。


一気に鼓動がはね上がる。


集積場は敷地の一番奥まった場所にあるので別方向へは進めないし、とっさに隠れられるような場所もない。


逃げられる訳がないのに、一人で無駄にアタフタオロオロとしていたけれど、至近距離まで来た小太刀さんと視線がかち合ってしまった所で覚悟を決めた。


「こ、こんにちは」


「…ああ」


しかし、すぐに会話が途切れてしまう。


ど、どうしましょう。


以前は小太刀さんとの沈黙の時間も楽しむ余裕があったのに、今はただ焦るばかり。


いっそのこと、このままさっさと立ち去ってしまった方が良いだろうか?


でも、気まずいながらも、小太刀さんと二人きりというシチュエーションにやっぱり胸がときめいてしまっていたりもして…。
< 221 / 290 >

この作品をシェア

pagetop