スイートホーム
とても逞しいな~と思う。


それに比べて私と来たら……。


人間関係は比較的良好で、お給料も申し分ないというのに、たかが失恋くらいでこんな恵まれた職場を去るなんて、同級生や就職難で苦しんでいる人達から見たら、とんでもなく根性なしに見えちゃうんだろうな。


だったらそのポジション譲ってよ!と憤慨されてしまうかも。


お母さんが激怒したのも当然だと思う。


だけど……。


やっぱり、ダメなんだよね。


だって、ここに居る以上逃げられないから。


仕事上経理部には頻繁に出入りしていて、その度に否応なしに優さんの姿を目にしてしまうし、また、聞きたくなくても色々な情報が耳に入って来たりもするだろう。


梨華と結婚し、その後彼女との間に生まれた子のパパとなり、一家の主として幸せで充実した人生を歩んで行くであろう優さんを、間近で感じてしまうのはとても辛い。


だからやっぱり私はこうするより方法はないんだ。


せめて、決められた期間内は完璧に仕事をこなして行こう。


誠心誠意、この会社に尽くして、最後の日は自分自身納得し、晴れやかな気持ちで去る事ができるように。


私は改めてそう決意すると、一心不乱に作業台を拭き始めたのだった。
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