スイートホーム
小太刀さんはマイペースに、淡々と語り続ける。


「ある人物にだけは、自分の中の取り決めなんかあっさり忘れ去って、当然のごとく、部屋に入るよう促していた。自分の過去を口にしてしまっていた。まるで呼吸をするかのように自然に無意識に。自分でも、かなり戸惑っている」


「…そんな方が、いらっしゃるんですか」


この話の流れ上、当然相手は女性なんだろう。


私は『ああ…』と内心深くため息を吐いた。


今度こそ、失恋決定だ。


私と小太刀さんの恋物語は、何も発展する事なく、終わりを迎えた。


だけどそれで彼が幸せになれるのならば…。


「そこまで心を許せるって事は、小太刀さんにとってその方は、とても大切な存在なんですよ」


私は喜んで彼の背中を押そう。


「もう告白はされたんでしょうか?まだだとしたら、きっと良い返事をもらえますから、どうか頑張って。その人と、幸せになって下さいね」


精一杯の笑顔で、彼の前途を祝福しよう。


……しかし。


「へっ?」


実際に、必死の思いで顔面に浮かび上がらせた笑みは、瞬時に崩れ去る事となった。


小太刀さんが心底仰天したような表情で私を凝視していたからだ。


めったにお目にかかれないであろう激レアな小太刀さんのそのご面相につられて、私も大きく目を見開きながら疑問をぶつけた。


「ど、どうしたんですか?何をそんな…」
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