スイートホーム
運命の土曜日、私は早鐘のように鳴り響く胸の鼓動を抑えながら、決戦の場へと赴いた。


受付の女性に案内され5階の会議室までたどり着くと、窓を背にして置かれた長机の前で50代前半くらいの女性がすでにスタンバイしていた。


数日前私と電話のやり取りをし、そして面接を担当して下さる渡辺さんだ。


「守家彩希と申します。本日はよろしくお願いいたします」


「はい。よろしくお願いいたします。それではそちらにおかけ下さい」


長机から数メートルの位置に向き合うように置かれたパイプ椅子を勧められ、腰掛けた所でさっそく面接の開始となった。


入室した時点で渡してある履歴書、職務経歴書に目を通しながら、渡辺さんがいくつか質問を投げ掛け、私がそれに答えて行く。


「……なるほど。ご自分の可能性を広げる為に転職を考えていらっしゃるんですね」


「はい。私を成長させてくれた場所ですので今の職場にも思い入れがあり、感謝もしておりますが、同じ事の繰り返しと言いますか、業務内容に変化がなく、これ以上のスキルアップは望めそうにもありませんので、他の現場も経験したいと思うようになりました」


まさか恋人に捨てられてそれが周りにバレる前に逃げ出したいとは言えないので、それらしい事を言って誤魔化す。


「そんな中御社の求人を拝見し、ぜひとも挑戦させていただきたいと思い、ご連絡差し上げた次第です」
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