スイートホーム
急いで視線を向けると、ちょっと気まずい表情を浮かべつつ、右手で首の後ろをサワサワとさすっている。


「あ、い、いえ、そんな」


いつまでもここに居ても仕方がないので、歩きながら話す事にして、私が一歩足を踏み出すと、自然の流れで加賀屋さんもそれに従った。


「あの子とはちょっと色々ありまして…。もう付き合いはやめるって宣言してたんですけど、ここに来られてしまって」


「うわ、そうなの?ますますゴメン」


彼が再び謝罪した所で玄関に到着し、彼は素早く扉を開け、私に先に入るよう促してくれた。


「あ、ありがとうございます」


「いや」


こういうのがスマートにできちゃうんだもんね。


ホント紳士だな。


礼を述べつつ扉を抜け、数歩進んで立ち止まり、加賀屋さんを待つ。


普段だったらこの後オートロックを解除して自動ドアを抜け、私は廊下を真っ直ぐ進み、男性陣はその途中にあるエレベーター、もしくは階段でそれぞれ自室を目指す訳だけど、まだ話が続きそうな雰囲気だったので。


ふと、管理人室の小窓から中を覗くと、電気が消えていて人の気配も感じられなかった。


来訪者の受付をするのは9時から18時まで。


すでにその時間は過ぎているので、きっと旦那さんはいつも通り自室に帰って夕飯の時間までテレビでも見ているのだろう。


自称「何でも屋」で細々と動き回っている旦那さんの、心休まる一時。
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