ポケットにキミの手を

「じゃあ、温泉宿を満喫しようか」

「はい!」


チェックインを済ませ、女将と食事の時間の相談をする。
菫はその間ずっと、落ち着かなさそうに俺の傍から離れなかった。


「先に風呂行って、湯冷ましに庭園とか散歩しようか?」

「あ、はい!」

「頼めば家族風呂も取れるけど。あんまり来たことないんなら大きい風呂のほうが楽しいかな」

「かっ……家族風呂って」

「小さめの風呂。一緒に入れるよ?」

「一緒って、いや、無理です、私、見せれない」

「今更でしょ。菫の裸何度も見てるよ、俺」

「あ、明るいところではないじゃないですか!」


まあいつもナイトライトにしているけれど、結構ちゃんと見えているんだけどな。菫はほぼ目を瞑っているから気づいていないのか。


「まあ、家族風呂はいずれね。じゃあ、風呂終わったらロビーで待ち合わせでいい?」

「はい」

「ゆっくり入ってきていいよ。俺ののんびりしてくる」


 大浴場の前で別れた後、俺は数種類の風呂を堪能する。旅行シーズンからは少し外れるせいか、宿は空いていた。時期の関係ない定年後の老夫婦の旅行客が多いのか、男風呂では六十後半くらいの男性たちが身の上話をしながら盛り上がっている。

さすがに入りづらい雰囲気だったので、俺は少し離れたところで悠々と入った。

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