ポケットにキミの手を
そして三十分もして上がると、ちょうど菫も出てくる。
「菫、早いな」
「なんか一人だと落ち着かなくて」
まあ、女風呂もおそらくは年配の女性ばかりだったのだろう。
押し切って家族風呂をとってしまえばよかったかとちょっと反省する。
「髪も濡れてる。風邪引くなよ」
「暖かいから大丈夫」
「じゃあ、次は散歩だ」
女の子は風呂に入るにも色々と荷物が必要らしい。彼女の小さな鞄を預かると、予想以上に重くて驚いた。浴衣のまま二人で宿の日本庭園を歩く。庭園自体には人はあまりおらず、ガラス越しの宿の中に年配のご夫婦が売店の周りを歩いているのが見えた。
薄暗くなってきた庭園で、化粧を落とした彼女は自然に柔らかく微笑む。
「やっぱり、司さんと一緒が楽しいです」
「風呂のこと? 一緒に入りたかった?」
「もう! そういう意味じゃないです。ただ、司さんといるとリラックスできるから」
「菫」
「こんな気持ち知っちゃったら、もう一人には戻れないです」
急にしんみりしたことを言われるとなんだか心配になる。
「戻さないし。これからは増えるだけでしょ」
笑ってみせると彼女も微笑む。そのまま近づいてきたかと思うと、珍しく自分から手を絡めてきた。