ポケットにキミの手を


 そして翌日、いよいよ顔合わせだ。
旅館を出て、菫に連絡を入れてもらい彼女の実家へと向かう。


「あー緊張してきた」


信号停止中に、バックミラーを使ってネクタイの曲がりを確認する。
今日に向けて新調したスーツは、着慣れないせいかしっくりこない。

菫の家は中心部から少し離れたところにある二階建ての一軒家だった。年数はそれなりに経っているのだろうという外観だったが、敷地は広い。駐車場も大きく取られているし、近所に同じ名字の表札がいくつもあるところを見ると、地主の家系なのかもしれない。

 やがて駐車場に車を停めると、菫が俺をまじまじと見てネクタイに手を伸ばして整えてくれた。


「バッチリです」

「そう?」

「自分のことで自慢できることがあるとすれば、それはあなたに選んでもらえたことです」


俺に勇気をくれるようなそんな笑顔を見せる。
ふたりで並んで玄関ベルを押すと、出迎えてくれたのは、まだ一歳にもならなさそうな女の子を抱えた彼女のお母さんだ。


「まあ、ようこそいらっしゃいました」

「お母さん、こちらが電話で話した里中さん」

「初めまして、里中司と言います」


頭を下げると、彼女の母親はにっこり笑う。


「まあ入って入って。菫も久しぶりね」


朗らかに迎え入れてもらったことにホッとしながら家の中に入る。

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