ポケットにキミの手を


「じゃあ固い話はこれで終わりにしましょう。お姉ちゃんも呼びましょうね。あやめー、こっちにいらっしゃい」

「ハイハイ。お話終わった? 初めまして、菫の姉のあやめです」


障子を開けて入ってきたのは、先程は母親が抱いていた赤ん坊を抱いた華やかな顔立ちの女性だった。ペールオレンジのシャツが似合っていて、さらさらのショートヘアも彼女の女らしさを奪う役目は果たしていない。むしろ、溌溂とした美人という良い印象を与える。その後ろに続くのが三歳くらいの女の子だ。


「初めまして」

「うわ、格好いいね。菫おばちゃんの彼氏」


後ろの娘さんに向かって笑いながらそういう。話すと見た目より軽い印象になるようだ。


「司さん、姉のあやめです。後ろにいるのが長女の桃奈(もな)で抱かれているのが次女の蘭奈(らな)」

「ふたりもお子さんがいるようには見えないですね」

「あはは。そう? 嬉しい事言ってくれるなぁ」


聞くと、お姉さんは俺と同じ年だという。気を使わず話してね、というのに甘えて話している間、ずっと菫が大人しい。


「あやめは就職してからバリバリ働いていたんだけど、結婚して辞めたのよ。でもこの子がいてくれると家の中が明るくて」


ご両親もあやめさんのことについては自然に饒舌になる。
入ってきてから、菫のことは何も話さないのにと思うと違和感は拭えない。
なんとなく、菫が過ごしてきた家庭環境が覗けるような気がした。

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