ポケットにキミの手を
そこから一時間位話をしてそろそろ帰ろうと腰を上げた頃、もう一人女性が飛び込んでくる。
丸顔で髪を茶髪に染めた元気そうな女の子だ。服装もカジュアルで若そうに見える。
「あらまあ、楓(かえで)」
「あーよかった。まだいた。菫姉の彼氏」
諫めるような母親の声も耳に入らないようにマイペースで輪の中心に入ってくる。俺は正面に来た彼女に笑顔を向けた。
「こんにちは。初めまして」
「妹の楓です。こんにちは!」
菫の妹は事前情報によると二十三歳だったはず。話した感じはもうちょっと幼く見える。末っ子特有の懐っこい雰囲気の持ち主だ。
「もう帰っちゃうのー? もっと早くこればよかった。うわあ、里中さんって格好いいんだねぇ」
屈託無く笑う彼女は、不意に菫の全身をくまなく見ると腕にひっついた。
「菫姉、そのネックレス可愛いねぇ。要らなくなったら頂戴」
「え? これはダメよ」
「えー、いいじゃん。ねぇ、お願い」
菫のネックレスは俺があげたものだ。毎日つけるほど彼女は大事にしてくれているから、渡したりはしないだろうと思うが。
「楓、ごめんね。これはダメなの」
「菫、いいじゃないの。あなたお姉ちゃんなんだから」
「そうよ。久しぶりに会う妹なんだから、優しくしてあげなさいよ」
頑なに否定する菫に、母親が驚くようなことを言い出した。あやめさんも同様に、何故か菫の方をたしなめる。
菫は困ったように二人を見て、それでも首を縦に振ることはなかった。