ポケットにキミの手を
「今日は待ち合わせなんだけど」
「存じております。お父様はもういらしておりますよ。こちらへどうぞ」
私は緊張で一言も話せないまま、彼の後について入った。
自分で思っていたよりものすごい状況みたい。
司さんの家ってやっぱりお金持ちなんだ。
高級そうな店内の、更に奥の個室のようなスペースに連れて行かれる。私たちに気付いた先客が、スッと立ち上がる。貫禄のある壮年の紳士と、品の良さそうなご婦人。この人達が司さんのご両親なんだろう。
「やあ、司。それと、菫さんと言ったかな?」
「初めまして。つ、塚本菫と申します……!」
かしこまって礼をするとクスリと小さな笑い声。見上げると、微笑みを浮かべたお母様が私を見ている。赤い口紅がとても印象的だ。
「可愛らしいお嬢さんね。初めまして、司の母です」
「よ、よろしくお願いします」
「二人がかしこまるから、彼女が緊張しちゃうんだよ。座ろう。家族で食事するのにかしこまる必要ないだろ」
「司は相変わらずだな」
お父様は、ふっと笑うと私に椅子にかけるように勧める。近づくとウェイターさんが後ろから椅子を動かしてくれた。
すぐに食前酒と前菜が運ばれてきて、促されて口をつける。
「改めて紹介するけど、俺が今おつきあいしている塚本菫さん。結婚しようと思ってるんだ」
「不束者ですが、よ、よろしくお願いします」
声が震えて、どうしてもどもってしまう。司さんの家族は、この場所に居ても全く違和感はないけど、私一人だけ浮いているような気がして落ち着かない。