ポケットにキミの手を
だけど、司さんの勢いは変わらなかった。
「ここでそんなこと言うこと無いだろ。昔のことは昔のことだ」
「でもねぇ、司。これ以上里中家に傷を付けられたら困るのよ」
眉をひそめるお母様を私は呆気に取られて見ていた。すると私の方を見てにっこりと笑う。
「ごめんなさいね、菫さん。知ってると思うけど、司は昔婚約破棄をされたことがあって。私たちも慎重になっているのよ。あなたはとてもかわいらしいお嬢さんだから、そんなこと無いって思うけど、もう少しお付き合いしてみてからでもいいんじゃないかしら」
「それは……」
司さんのせいじゃないです。
そう思うのに、それ以上言葉がでなかった。
「見ての通り司は頑固でね。私の忠告は全然聞いてくれないの。あなたの方から言ってやってくれないかしら。あなたもまだお若いし、お仕事にも意欲があるようだし。焦ることは無いと思うのよ。もちろん、何年後かにはちゃんと里中家のお嫁さんとしてあなたをお迎えするつもりなのよ?」
「母さん! 勝手なことばかり言うなよ。俺は菫と今すぐにでも結婚したいんだ」
「そうやって慌てて、離婚するようなことになったらどうするの」
私は、赤い口紅から目を離せなかった。
ああ、やっぱり反対されているのか、とぼんやりと思う。