ポケットにキミの手を

「私、彼に出会って初めて、自分を好きになることが出来ました。私に自信を持たせてくれたんです。もし彼の気持ちが変わったとしても、彼が私にくれた気持ちは残って、私を支えてくれると思うから。ここで待ったことを私は後悔したりしません」

「菫」

「感情論ね」


お母様は私の返事が気に入らなかったようだけれど、お父様のほうが頷いた。


「……いいお嬢さんじゃないか。私は賛成だぞ?」

「あなた?」

「親父?」


冷静を保ったままのお父様は、私に穏やかな眼差しを向けた。


「この場で司を抑えこむことが出来たのは、彼女だけだ。それを見ただけでも、彼女が司には似合いの相手だと分かるじゃないか。どうせ司は次男だ。格式張った付き合いには出てこないしな。これ以上君と司の関係が悪くなる方が問題だと思わないか?」


お母様に向けて、低い声で言う。するとお母様はバツが悪そうに、声を潜めた。


「関係を悪化させているのは司の方よ。家にも寄り付かないし、私のいうことなんて聞きやしない」

「母さんだって俺のいうことを何も聞かないじゃないか」

「ほら、お前たちはどうしてそうなんだ。とにかく、私には反対する理由が見つからない。三年なんて待たせることも無いだろう」

「でも、司は里中家の子よ。銀行頭取の娘さんとの縁談だって持ちかけられたりしているじゃない。あなたの顔だってあるわ」

「見合いの話が出たところで司にする気がないのなら、早く結婚されたほうが断る言い訳が出来る」

「あなた」


不満顔のお母様に、お父様はどこまでも冷静に告げた。
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