春に想われ 秋を愛した夏
「はい。なんですか、蒼井さん」
先生口調の塔子が、質問は? と真面目腐った顔つきで訊ねる。
まずは。
「メールの内容って、なんだったの?」
私の質問に、秋斗が珍しく困った顔をした。
強気な秋斗はいつだって前進あるのみの人だから、こんな風に困り顔をすることなんてみたことなかった。
なのに、今は塔子に口止めしようとさえし始めている。
「野上さん。言わなくていいからな」
半強制的な言い方の秋斗が、塔子に詰め寄るようにしている姿がなんだかおかしい。
「どうしましょ?」
秋斗に口止めされ、私には話すよういわれ。
両方の間に挟まれているというのに、塔子はとても楽しそうだ。
ニタニタ、ニヤニヤ。
話そうか話すまいか、わざとらしく悩んでいる。
「世の中には、知らなくていいこともあるんだよ」
秋斗がもう一杯ビールを頼み、届いて直ぐに喉を鳴らして飲んだあと、必要ないと言い切る。
「だってよ、香夏子」
「私は知りたいけど」
窺うように秋斗をみると、もう一度知らなくていい。と無碍もなく切られた。
「メールの内容はさておき。こうやって逢いにきたって事は、そういうことなんでしょ。秋斗君」
塔子は、さっきとは打って変わり、とても真剣な顔で秋斗を見た。
すると、脱力した姿勢のまま座り込んでビールを飲んでいた秋斗が、居住まいを正した。
そうして、私を見る。