春に想われ 秋を愛した夏
「謝れないんだったら、俺はもう帰る」
「え? なにそれ?」
わけのわからない行動に驚いていると、本気なのか席を立って出口へ向かってしまった。
呼び止める余裕もなく、唖然とその背中を見送っていると、しばらくして秋斗が振り返った。
「おい。そこは普通呼び止めるんじゃないのかよ」
芸人のような突込みで不服そうに言うと、また戻ってきた。
なんだかよく解らないのりだ。
「まぁいい。とりあえず出るか」
一人で可笑しそうに笑みを浮かべている秋斗は、まだ何がなんだか解らないまま、脳が停止状態の私を連れて店を出た。
「大分、涼しくなってきたよな」
何処に向かっているのか判らない秋斗の半歩後ろを歩いていると、世間話をするおじさんみたいなことを言い出す。
「おっさんくさいね」
私は、わざと意地悪く言って、秋斗の表情をうかがった。
「まぁ、それなりに年は重ねてきたからな」
私の意地悪発言に怒りもせず、秋斗はシミジミと呟く。