春に想われ 秋を愛した夏
少ししてたどり着いたのは、私の自宅マンション前だった。
躊躇いもなくエントランスに入っていった秋斗は、降りてきたエレベーターに乗り込んで、当たり前のように階数を訊く。
「何階?」
「あ、あのさ。上がりこむ気?」
躊躇いながら訊ねると、有無も言わさず、また何階かを訊ねられて、素直に応えた。
そうして、何故だか連行でもされるかのように自宅マンションの玄関ドアの前に秋斗といる私。
「鍵」
言われて、パブロフの犬の如く鍵を取り出してから、マジマジと秋斗を見ると、横からその鍵を奪われ、さっさと開錠されてしまう。
「お邪魔しまーす」
一応というのがありありとした棒読みで、秋斗がズカズカと中へ入り込んだ。
「結構、綺麗にしてんじゃん」
「あ、あのさ。秋斗」
「ん?」
何で、上がり込んでるわけ? という表情で顔を見ると、さっきまでふざけてるのかと思っていた態度を改めて、急に目が真剣になった。
「逢いたかった」
秋斗のたった一言に、トクンとひとつ心臓が鳴る。
「香夏子に、逢いたかった」
その言葉と同時に抱きしめられ、キスをされた。
深く入り込む舌が、放したくないと攻め立てる。
息もできなくなるほどの口付けに、私は溺れていった。
そのままなだれ込むようにリビングのソファに押し倒されると、秋斗が顔を覗き込んできた。
「あの時、無理やり犯してやろうかと思った」
「なっ」
「昔の俺だったら、多分平気でしてたと思うし、そのあと簡単に捨ててた」
「あんまり恐い事、白状して欲しくないんだけど」
呆れて言うと、ケタケタと笑っている。
「何が大事で護らなきゃいけないものなのか、今は解る。だから、簡単に捨てたりしないし。もちろん、捨てられるのなんかも真っ平ごめんだ」
「秋斗……」
「だから、あの日。俺は香夏子を引き止めなかった」
大きくて暖かな手が頬に触れる。
さっきとは違う優しいキスが、降りてくる。
包み込むように抱きしめられ、体中に優しく触れる唇に愛を感じた。
「もう、放したりしない」
キスをして見つめあうと、今更のように照れくさくなり、二人で笑いあった。