悪魔ニ花束ヲ

離れた女、制服を着ていないその後ろ姿は短いスーツのスカート、上品な生チョコブラウンの纏められた髪は、怯んだように後ずさる。ひとつだけ幸いだったのはその人があたしの方じゃなく、階段を駆け上がってくれた事だ。おかげでその女性と目が合うなんてドンパチはなかった。見てはいけない場面を見られたなんて、気づいてない筈だ。


「覗き見は悪趣味だよ?」

灰原は無表情にあたしを睨む。不可抗力だと言いたい。なんだか嫌な予感がして仕方ない。ついでに、クと口元が上がった理由も知らなければ、先程の女性に対して王子の仮面を剥いだ一言を投げつけた背景も知らない。理解したくない。


「消毒させて」


もう一度言おう、理解したくない。


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