【完】こいつ、俺のだから。
すると先輩は、なにかを悟ったようにあたしと佐野を交互に見つめた。
そしてあたしに向かって微笑むと、
「髪切ったんだ。……似合ってる」
これ以上ないくらい優しい声音でそう言った。
「……あ、ありがとうございます」
照れ臭くなりながらもお礼を言い、改めてあたしも先輩を見つめる。
……やっぱり、もう大丈夫だ。
今やっと確信を持てた。
先輩は隣にいる彩さんを支えている。
そしてあたしは、先輩のために伸ばし続けた髪を切った。
……新たに心を切り替えたあたし達は、どこか似ているような雰囲気がある。
もう先輩を見ても揺らぐことがないのは、きっとこいつのおかげ。
だからこそ、言える。
「……彩さんとお幸せに」
「……っ!」
先輩は目を一瞬見開くと、すぐに穏やかに緩めた。
「……あぁ、仁菜も幸せになれよ」
あたしはそれに、コクリとうなずいてみせる。
……本当の勝負はここからだ。
振り返って佐野を見つめると、驚いてるような、困惑してるような、とりあえずしどろもどろしてる。
イマイチ状況が飲み込めてないのは確かだ。ザマーミロ。
「行くよ!」
そんな佐野の腕をひいて、あたしは大勢の集団の中からその場をあとにした。