あなたまでの距離
「逢いたかった…」


彼のその言葉で、さっきまでの不安が少しだけ軽くなり、彼の背中に腕を回して、匂いを感じた。






コーヒーを出して、思いきって聞いてみた。

「どうやって、出てきたの?」

彼は、一口コーヒーに口をつけて、さらっと

「沙耶に逢いたいから、行ってくるって、そう言って出てきたよ」

そう言われ、本当に硬直してしまった。

「…はっ?えっ…?本当に?」


本当に度肝抜かれたというか、表現のしようがなかった。


「うん。あ、煙草、吸っていい?」

至って普通の高木さん。私が灰皿を差し出すと、ありがとう、と言って火をつけた。


「…奥さん、何も言わなかったの?」

「言われたよ。何考えてるの?って。」

テーブルに灰が落ちないように、灰皿の縁でそっと灰を落としながら、彼は言った。



「で…それで、何て答えたんですか?」


その問に、彼は真っ直ぐ私の目を見て、こう言った



「すごく好きだから、逢いたい。そう答えたよ」




< 24 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop