【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「……やです。本当に今みっともない顔してるの」
「そのみっともないのがいいんだよ。おまえが俺のことで余裕なくしてる顔、見たい」
力づくでされたら思いっきり抵抗したのに、こんなときに限って法資はそっと頤に指を掛け、まるでキスするときのようにやさしく上に傾けてくる。
そんなふうに扱われると口ではなんと言っても抗えなくなってしまうのが惚れた弱みというやつだった。自分の顔を覗き込んできた法資はこそばゆそうに目を細めて、口の端を愉快げに吊り上げた。
「なんだ。おまえ随分可愛い顔するんだな」
「………何言ってるのよ、悪趣味、意地悪っ」
恥ずかしさのあまりに悪態をつくと、その態度すらうれしそうに法資が微笑んでくる。
「……もうばか。本当に嫌」
「だったらおまえもあんまり人のこと苛めてくれるなよ」
振り払おうとする泰菜を無理やり腕の中に押し込みながら、法資は苦い口調でこぼす。
「昔のこととはいえ、今おまえにそんなしんどい思いさせるなら、あんないい加減なことばっかしなきゃよかったってこれでも後悔してるんだからさ」
言葉以上に悔いを感じさせる沈んだ声に、抗うのをやめるといっそう強く抱き締められる。
「けどあの頃はまさか将来おまえにプロポーズする日が来るなんて考えたこともなかったからな」
「……そんなの、わたしだって……」
こうして法資から愛おしいのだとばかりに体を引き寄せられて、隅々まで自分のものにしてしまいたいと熱っぽい抱擁で訴えられる日が来るなんて、子供の頃どころかつい半年前までは想像すらしいていなかった。