【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「あーあ。勿体無いことしたな。あともうすこし早く口説いてたら、おまえ俺以外の男知らずにいたのにな」
法資の冗談みたいな口ぶりの裏側に、本気で惜しんでいるような雰囲気が潜んでいた。だからそれに気付かないふりをして、わざと露悪的に「……他人の手垢がついた女は嫌だった?」と訊いてみると。
「ってかみすみすおまえの処女、他所の男に食われたことが悔しいだけだ」と言われて、子供のときよくそうされたようにこつんとおでこを小突かれた。
法資の本音なのかもしれないし、やきもちをうまくなだめられてしまっただけなのかもしれない。
でもこうやって馬鹿馬鹿しいくらい甘ったるいやり取りをしていることに、法資とそういうことが出来る仲になれたことへの実感が沸いてきてどうしようもなく顔が緩んでしまう。
「……法資、よくそういうこと恥ずかしげもなく言えるよね」
「なんとでも言えよ。まさかおまえが津田とキスも一回しかしないで別れたとか、その後も長いことフリーだったとか思わなかったな」
モテなくてすみませんねと毒づきながらも、会わなかった年月の長さにふと思う。
「わたし、高校卒業した後は進路別々になったし、正直もう法資とは会うことないかもなぁってずっと思ってたな」
「学校一緒でも中・高クラス同じになったことなくて、同窓会で会うこともなかったしな」
法資はずっと海外暮らしだったし、地元に帰る予定がなかった泰菜もおそらく結婚でもしなければきっとあのままずっと静岡の祖父の家に住んでいた。
あの日の偶然の再会がなければいまも法資とは平行線のまま、永遠に交わることのない別々の時間を送っていたはずだ。