【続】三十路で初恋、仕切り直します。

「そういう無自覚なとこ、ガキの頃は可愛さ余って憎さ百倍ってヤツだったんだろな。ヤリたいっていうか、腹いせにときどきおまえのこと本気で踏みにじってやりたくなった」
「………なにそれ」

冷静な言葉の裏側に法資の本音を垣間見た気がして鳥肌が立つ。怖かったからじゃない。法資が内側に秘めたものに触れて、法資が自分に向ける感情の熱さに肌が粟立つほどに高揚したからだ。


法資に嫌われたのかもしれないと思っていた16歳の頃。あのとき避けられていると思っていた法資から本当は執着されていたという事実は、ひどく甘く泰菜の心を法資に縛り付ける。


「やだな。法資、なんか怖いよ……?」
「今更気付いたか?ときどき頭に血が上ると自分でも自分が何やらかすのか分からなくなるときがあるからな。だからおまえ、浮気だけはするなよ?」


俺をいい子でいさせてくれよ、と言いながら法資が唇を重ねてくる。


激情を垣間見せながらも、そっと押し当てられた法資の感触はどこまでもやわらかい。高校生のときもしも普通に恋に落ちていたらこんなキスをしていたんじゃないのか。そう思えるような、どこまでもやさしいキスだ。

角度を変えながらも、舌を絡めることなくただシンプルに唇と唇をぴたりと触れ合わせている。泰菜のあのひどいファーストキスをやり直すような、時間を撒き戻したような純情なキスに心が昂ぶってなぜか目がじわりと潤んでくる。



今お互いを思いやりながら触れ合うことが出来るのは、大人になったからだ。会わずにいた十数年間は、きっと今こうして素直な気持ちで寄り添い合うために必要な時間だった。

だから16歳のときに法資にひどい仕打ちを受けたことも、それが決定打になって疎遠になってしまったことも、すべてそれでよかったのだと今は思える。



そんな甘い感傷を満たしていく唇の触れあいを何度も何度も続けて。
でも大人だからこそ、そのうちそれだけでは足らなくなって。



拒まれるかなと不安に思いつつ、すこし迷ってから自分から法資の唇の間に舌をすべりこませた。




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