ホルケウ~暗く甘い秘密~


雷に撃たれたようなショックが、りこを襲う。

あの時、少年を助けるために橋を降りたら、彼は噛まれなかったかもしれない。
そう思うと同時に、現場に居合わせながら、噛まれたのが自分ではなくて良かったと安堵してしまった。

そんな複雑な心境を察したのか、湯山は事務的な口調でこう告げた。


「君の通報のおかげで、彼はすぐに病院に運ばれた。感謝する。このあと、一、二回ほど事情聴取があるから、最後まで付き合ってほしい。今日は貴重な情報をありがとう」


記録係の若い男性は、明日また改めて話を聞かせてもらいたいと願い出た。
断る理由もなかったりこは、二つ返事で承諾してしまう。

そしてりこは、警察に護送されながら、無事帰宅したのであった。


りこの保護者、政宗が平日はほぼ毎日帰りが遅いと聞いて、りこを護送した婦人警官は顔をしかめた。
年頃の女の子に、一人暮らしまがいのことをさせるなんて、と思っている様子がもろに顔に出ている。


「お祖父様は、いつご帰宅の御予定ですか?」

「金曜日はいつも7時頃に帰ってきます。多分、もうそろそろ……」


待ちきれないのか、婦人警官は政宗が帰宅したら警察署に連絡するようにしつこいほどに念を押し、りこが家に入るのを見届けた。

玄関に入るなり、りこはローファーを脱ぎ捨てた。
重い足取りでリビングまで行き、ソファーに倒れこむ。

起きあがらずにテレビのリモコンを手繰り寄せ、スイッチを入れれば、夜のニュースはまだ終わっていなかった。

普段ならゴールデンタイムはバラエティー番組、そのあとにドラマが放送されるのだが、今日に限ってニュースの終わりに緊急速報が飛び込んできたのだ。


「緊急速報です。さきほど、白川町の中央に位置する白川坂のふもとの小川で、3匹のロシアオオカミが目撃されました。オオカミは、同町の東山中学校に通う有原基樹くん(13)を襲い、有原くんは町内の病院に搬送されました。なお、この事件に対し、北海道警察はロシアオオカミの専門家を招聘し、早急に対策を立てるとの発表がありました」

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