ホルケウ~暗く甘い秘密~
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湯山彰は、長い足を惜しげもなく広げ、屋上のベンチで一服していた。
今吸っているので三本目になるが、まだまだ吸い足りない。

頭の中では、嫌でも先ほどの会議の内容がリピートされる。


『バカ野郎!!なんなんだ、この調書は!!』


白川町署の副署長、岩代警視は憤怒のあまり顔が赤とも紫ともとれない色になっていた。


『なぜ被害を食い止められなかった!ええッ!?マル害(被害者)が意識不明でいつ死んでもおかしくねえってことがマスコミに漏れたら、ただでさえクソみてえなこの署の評判丸潰れじゃねえかッ!』


あまりの物言いに、さすがに湯山は憮然とした態度を取った。
今回の件に関してならともかく、日頃のこの署の評判を落としているのは紛れもなくお前だと、声を大にして言いたい。

女性職員へのセクハラはもちろん、部下へのモラハラ、パワハラの数々。

岩代のおかげで、一体何人の女性職員か退職したことか。
不満を持った部下たちの暴走を抑えるのに、どれだけの人間が苦労していることか。

八つ当たり混じりの叱責をひとしきり受けた後、町長を交えての会議では、道東に住むすべてのプロハンターに協力を要請することになった。

個人個人に連絡をしたものだから、全員の返信が来た頃にはもう10時を過ぎていた。

明日にでも、ハンター達の間ではオオカミ対策のため、なんらかの会が結成されることであろう。


「こりゃ、デカイ事件になるな……」


まったく、嬉しくもなんともない。
その昔、本庁に勤めていた頃、1年のうちに一度は必ず大きな事件があったものだが、そのたびに湯山はうんざりしていた。

偶然にしては出来すぎているほど、湯山が関わる事件は、十中八九警察の汚職が絡んでいたのだ。

別にそれに関してとやかく言うつもりはないが、一つの事件に関わるたびに自分を監視していく人間が増えるのが、たまらなくウザかった。

ある日、我慢の限界が来た湯山は、自ら異動願を引っ提げて、自分を疎ましく思っている幹部達に叩きつけた。

彼らは喜んで承諾し、こうして湯山は自分の生まれ育った北海道に戻ったのである。

それからは、平和な日々だった。
たまに見かけるヤクザ、そしていまだに残っている暴走族は厄介だが、それでも下手に警察に反抗しようとしない者が圧倒的に多かったため、仕事は楽だった。

白川町は治安があまり良くないが、それは一部の異常な人間が引き起こす事件によるもので、住民は比較的気のよい者が多い。

ここで、たまに起きる事件を片付けながら、死ぬまでのんびり過ごすはずだったのだ。

湯山は、この町で唯一、愚痴を吐きにいける場所へ向かった。


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