円形脱毛


私の中でダイエットのつもりで始めた食べたものを吐き出す行為は、次第にストレスを吐き出す行為へと変わった。

美容師をしている中、思うようにならない事が沢山あった。

お客からクレームがあったり、思うように技術が上達しなかったり・・・。

ストレスが溜まり、遊びに行きたいと思っても、私の家は、昔と変わらず門限があれば、外泊も禁止なのである。

それに自分の部屋に電話を引いたり、テレビを置くことすら禁止だったので、家に帰りテレビが見たくても、親と一緒にリビングに居なきゃならないし、友達から電話が来ても、親の前でリビングの電話を使わなければならなかった。

今でこそ、誰もが持つ携帯電話は、当時、それほどポピュラーなものではなかったから、そんなものは持っていなかった。

家に居ること、そのものが苦痛で仕方がなかった。

家には私が、小学校の頃に欲しいと言って拾ったり貰ったりした、犬が数匹、猫も数匹いたけれど、母親が全て面倒を見ていた。

母親は無類の犬猫好きな人で家にある服や敷物が全て犬猫の毛だらけでも、なんら気にしない人なのである。

私は、それもストレスだった。

家に帰り、玄関で靴を脱ぎ、そのままにしておくと、よく犬にぐちゃぐちゃに齧られて、捨てるハメになった事が何度もあって、その都度、犬を叱ると母親が怒る。

父親が、もう少し、家の中を綺麗に使えないのかと母親に言い、口ケンカに発展すれば、母親は犬や猫を「自分の子供よりも大事な子」と言うセリフを何度も使った。
それを、いつも聞きながら、家族で暮らす、この家での生活も、うんざりだった。

食べると太るのに、食べろと言う親。

友達が皆で遊んでいるのに、私だけは門限を付ける親。

好きなテレビが見たいのに部屋にテレビすら置いてくれない親。

誰にも聞かれたくない話もあるのに部屋に電話を置いてくれない親。

いつも犬猫の毛で衣類が毛だらけになるし靴は壊されるし、それなのに私よりも犬猫が大事だと言う母親。

帰宅すれば、何かと用事を言いつけて、職人気質なせいか、言葉使いの汚い父親。

その言葉に出せないストレスを、私は食べ物に変えて、口の中に詰め込めるだけ詰め、そして一気に吐き出した。自分の中から、何か毒が出たような気分で、ほっとした。



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