僕らが大人になる理由


そう思いながら仕込みを続けていると制服に着替えた光流が戻ってきた。


「なー紺ちゃ、さっきの話なんだけど…この間ゆり」

「光流って真冬が好きなんですか?」

「は!?」

「あ、口隠した」

「えっ」

「光流って嘘つくときとか動揺した時、口元隠しますよね」

「ちょ、なに、いきなり。なんで真冬」

「別にいいですよ。ここ職場恋愛禁止とかないし」

「いや、まだ俺なんも言ってないけど!」

「否定もしてないですよ」

「きいいいもう可愛くない子だねお前は!」

「痛いです」


光流が俺の頭を拳でグリグリと圧迫した。

無表情でダスターを洗い続けていると、そこにあゆ姉が来た。


「あらあら…仲がいいのね」

「あゆ姉、光流が真冬のこと好きらしいですよ」

「まあ…それは儚いわね…」

「さらっとバラされたー。ー瞬で働きづらくなったー。もういい、君たち嫌い」

「真冬ちゃんは紺ちゃんのことが好きなのにねえ…」


あゆ姉の一言で、店内が一気にしーんと静まり返った。

あの光流でさえ表情を強張らせていた。

あゆ姉は、しれっとした表情で口を片手で軽くおさえた。


「あら、なにかおかしなこと言ったかしら?」

「あゆ姉…今ここでそれ言う…?」

「あら、ごめんなさい。ちょっと先に着替えてくるついでに、真冬ちゃんも呼んでくるわ。今日18時入りよね?」


そう言ってあゆ姉は二階にあがった。

残されたのはこの気まずい空気と、光流と俺。

俺は、その気まずい沈黙の中、数か月前のことを思い出していた。


『あのっ、あたし、紺野さんのこと好きになっちゃいました!』
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