僕らが大人になる理由
そういえば俺は、あの言葉に対して、何も返事をしていない。
由梨絵の話を何回か店長にふられて真冬の前でしたことはあるけれど、由梨絵の存在のことを真冬はどう思っているのだろうか。
もしかして、今まで結構無神経に傷つけてしまったことがあるのだろうか。
真冬は俺のことを本当に好きなのか?
男として好きなのか?
だとしたらその気持ちを、俺はどうしたらいいんだ?
じゃあ光流は? 光流の気持ちはどこにむかうんだ?
突然、今までまったく気にしていなかったことが気になりだした。
言葉を失っている俺を見て、光流はむっと頬を膨らませた。
「なんかゴチャゴチャ考えてるみたいだけど、そんなん最初から知ってるし」
「え」
「気にしなくていいよ。別に俺は、真冬が誰を好きであろうと、ただ勝手に好きでい続けるから」
「………」
「別に紺ちゃんのこと、嫉妬して嫌いになったりとか、しないし」
光流は、目をそらしながら、気まずそうに話した。
その言葉に返す言葉がなくて、黙っていると、でも、と少し低い声で光流が口火を切った。
「でも、わりとマジだから。遊びじゃないから」
「……」
「それだけは言っとく」
そう言い残して、彼もまた忘れた前掛けを取りに二階にあがった。
あんな真剣な表情の光流は、初めて見た。
人を好きになると、人はあんな表情をするのか。
俺は光流をどこか遠くに感じた。
嫉妬、という感情を抱いたことが無いから、想像はつかないけど、光流にとったら俺は、厄介な存在になってしまったんだろうな。
俺はもう、極力真冬に近づかない方がいいのだろう。
「………」
額にキスをしてしまったあのことは、始めから無かったことにしよう。