僕らが大人になる理由
「お疲れ様ですー」
それからしばらくして、久々に三人がそろって着替えてやってきた。
店長不在の為、光流はキッチン、あゆ姉と真冬はホールだ。
今日は一番の責任者であるから、それなりにピリピリしていた俺だけど、お馴染みの3人で少し安心した。
「下げお願いしますー」
最近は真冬も仕事にやっと慣れだして失敗もしなくなってきた。
少しミスをしても、持ち前の明るさとあの笑顔で、なんとかやり過ごしている。
オーダーミスや接客への配慮不足で叱ることもまだあるし、それで真冬がへこんでいる時もあるけれど、そんなことで折れたりはしない所が真冬の良い所だと思う。
スタッフへの配慮もできるくらい余裕がでてきたみたいだから、そろそろ会計の仕事も覚えさせなくては…。
副店長として、真冬を管理しなければ。
そんなことをぐるぐると考えながら料理をしていると、あの、と小さな声がふってきた。…真冬だった。
「この春巻き、1本増やして4本にしたりできますか? 5宅のお客様が4名なので…」
「できますよ」
「了解です、ありがとうございます!」
「伝票に+180円してつけておいてください」
「はいっ」
あの日以来、真冬と初めて話した。
いつも通り笑顔で返事をする彼女。だけど、視線をすぐに逸らす。
俺はそのことがずっと気になっていたけれど、何も言えなかった。ただの思い過ごしかもしれないし、だいたい俺もあんまり人の目を見て話す方じゃないから。
もしかして、あのキスのことを気にしているのだろうか?
「………」
だとしたら、悪いことをした。
無責任なことを、してしまった。
「いらっしゃい」
少し落ち込んで目を伏せたそのとき、ご新規さまが来店した。
しかし、そのお客さまを見た瞬間俺は目を丸くした。
「柊人君」
「由梨絵、なんで…」
「来ちゃった、へへ」